太陽と月を除くすべての惑星が逆行します。近い惑星ほど逆行はまれで劇的、遠い惑星ほどありふれていて長く続くという、頻度と期間のちがいから金星・火星・木星・土星までを順番に見ていきます。
逆行するのは水星だけではありません。太陽と月を除くすべての惑星は、地球から見ると一時的に進む向きを逆にしたように見える期間を持っています。水星の逆行がいちばん話題になりやすいのは、一年に三回か四回という頻度でくり返され、しかも一回が約三週間と短くて始まりと終わりに気づきやすいからにすぎません。金星や火星、さらに外側を回る木星・土星・天王星・海王星・冥王星も同じ仕組みで逆行し、外側の惑星の中には一年のうち三分の一以上を逆行した状態で過ごすものまであります。
どの惑星も実際に減速して止まり、向きを変えて戻っているわけではありません。太陽のまわりをつねに同じ向きで回り続けていて、逆行という現象は、こちらも動いている観測点、つまり地球から見たときにだけ生まれる見かけ上のずれです。
火星から冥王星までの外側の惑星については、地球のほうが内側を短い周期で回っているため、追い越しが起こったときに逆行して見えます。地球が外側の惑星を追い抜く前後の数か月間、その惑星は星々を背景にいったん後ろへ下がるように映り、追い抜き終えると元の向きに戻ります。地球が太陽の反対側から惑星をまっすぐ見上げる「衝」と呼ばれる状態は、逆行のちょうど真ん中あたりで起こり、この時期の惑星がいちばん明るく、一晩中空に見えている時期でもあります。逆行中の木星は弱った木星ではなく、その年でいちばんよく見える木星です。
金星だけは事情が違います。金星の軌道は地球より内側にあるため、地球と太陽のあいだを横切るときに逆行し、真夜中に明るく輝くというよりは、望遠鏡で見ると細い三日月のような形で近くに現れます。日本では金星を宵の明星や明けの明星と呼びますが、この呼び名が入れ替わるタイミングも、金星の逆行と深く関わっています。
周期の長さは、その惑星の速さと地球の速さの関係で決まります。地球に近い惑星ほど逆行はまれで劇的、遠い惑星ほどありふれていて長く続きます。
これをすべて足し合わせると、逆行のない日のほうがめずらしいことがわかります。たいていの日には二つか三つの惑星が同時に逆行していて、どの惑星も逆行していない期間は一年のうちほんの数回、短い間しかありません。
この長さを見ると、逆行を危険のしるしとして扱う考え方には無理があるとわかります。もし逆行そのものが悪いことなら、冥王星は一年の三分の一以上、生きている全員にとって悪い状態が続くことになってしまい、ほぼ常にあてはまる警告は、警告としての意味を持ちません。
外側の惑星を扱う占星術師の多くは、この点をきちんとわきまえています。天王星・海王星・冥王星の逆行は背景の天候のようなものとして扱われ、その惑星が個人の出生図の中でとくに敏感な位置に重なっているときにかぎって読まれ、そのときでさえ逆行かどうかは位置そのものほど重視されません。実際に重く読まれるのは水星・金星・火星という近い惑星で、木星と土星はそれよりやや軽めに扱われます。
ここから先は観測ではなく、受け継がれてきた解釈です。予言として鵜呑みにするのではなく、考えごとの見出し程度の軽さで、読者自身が一歩引いて眺めるのが無難です。
金星逆行は愛情やお金、好みに結びつけて読まれ、自分が何を大切にしているかを見直す時期だとされています。よくある例として、別れた相手が急に連絡してくることや、あとで後悔する買い物をしてしまうことが挙げられます。結婚式の日取りを決める、家を大きくリフォームする、美容医療を受けるといった、あとから取り消しにくい決断は先送りにするというのが昔からの助言です。好みを判断する感覚が一時的に定まりにくいと考えられているためです。
火星逆行は行動力や勢いに関わるとされます。物事に勢いがつきにくい時期と読まれ、この時期に始めた計画は途中で失速しやすく、言い合いは着地しないまま堂々巡りになりやすく、怒りは発散されずにため込まれやすいと言われています。火星の逆行は数年に一度しか来ないうえに数か月続くため、新しいことを始めるにはもっとも都合の悪い逆行として扱われがちです。
木星逆行は広がろうとする力が内側へ向かうとされ、自分が何を信じているか、育ててきたものをこのまま大きくし続けてよいのかを、あらためて考え直す時期だと読まれます。
土星逆行は、暮らしを支えている約束事や規律を点検する時期として読まれます。土星が順行しているときの圧力は外から来るとされるのに対し、逆行しているときの圧力は自分自身にかけるものだとされています。
外側の惑星は一年のうちかなりの期間を逆行して過ごすため、いくつかの惑星が逆行しているときに生まれること自体はごくふつうのことです。生まれた瞬間の空をそのまま写し取った出生図には、逆行している惑星がひとつも含まれていないほうがめずらしく、たいていは一つか、多ければ三つか四つ含まれています。
逆行して生まれた惑星は、その惑星の働きが内側へ向くと伝統的に読まれます。火星が逆行していれば怒りは表に出ずに内へこもりやすいとされ、金星が逆行していれば愛情表現がぎこちなかったり伝わるのが遅かったりするとされ、水星が逆行していれば人前で話す前に頭の中でくり返し練習するタイプだとされます。多くの占星術師は、こうした働きは劣っているのではなく、育つのに時間がかかるだけだと付け加えます。
どんな配置にも共通する注意点があります。生まれた年の多くの人に当てはまることは、その人個人について語る材料としてはあまり強くありません。
それぞれの逆行期間は「ステーション」と呼ばれる、惑星がほとんど止まって見える数日間から始まり、同じような数日間で終わります。遠い惑星ほどこの動きはゆっくりで、外側の惑星は一週間以上も同じ一度の位置にとどまることがあるため、外側の惑星を扱う占星術師は特定の日付よりも、惑星が止まっている度数のほうに注目します。
実際の使い方は地味なものです。逆行がいつ始まっていつ終わるかを記録し、その惑星が何を司るとされているかを頭に入れておき、ただの調子の悪い一週間をそのまま逆行のせいだと決めつけないくらいの距離感で受け止めておくとよいでしょう。
最後に、天文学としての話を加えておきます。占星術の中でも、この逆行という現象ほど仕組みがはっきり説明できるものはめずらしく、地球を中心に据えた古い宇宙観ではこの後戻りを説明するために複雑な追加の理屈が必要でしたが、太陽を中心に据え直したとたん、ただの追い越しとして単純に説明がつくようになりました。逆行そのものは実在する現象で、何百年も先の日付まで正確に計算できます。それが何を意味するかはまったく別の話で、観測ではなく受け継がれてきた解釈に基づいています。