新月とは、月が地球と太陽のあいだに入って光を受けた面が完全に見えなくなる瞬間のことで、およそ29.5日に一度めぐってくるこの暗さが、なぜ終わりではなく始まりとして読まれてきたのかを説明します。
新月は、地球と太陽のあいだに月が入り込み、私たちの側からは光を受けた面がまったく見えなくなる瞬間を指します。夜空から月そのものが消えてしまうため、暦の上ではこの空白を終わりではなく新しいめぐりの始まりとして扱う伝統が古くから続いてきました。天文学として起きていることと、そこに人が読み込んできた意味とは別のものであり、両者を分けて見ていくと理解しやすくなります。
月は自分で光を放っているわけではなく、太陽の光を反射して輝いて見えているだけです。球体である以上、常に半分は光を受け、残り半分は影の中にあります。新月では月がほぼ太陽と地球を結ぶ直線上に入るため、光を受けた面は地球の反対側を向き、こちらから見える面はすっかり影になります。
この並びには見落とされがちな結果があります。新月は夜ではなく、昼間の空にあるということです。太陽とほぼ同じ方向にあるため日の出のころに昇り、正午近くに空の高い位置を通り、日の入りのころに沈み、太陽の明るさにまぎれて一日じゅう見えません。そのぶん新月をはさむ前後の夜は月明かりがまったくなく、一か月のうちでいちばん星や天の川が見やすい暗さになるので、星空を見に出かける人はこの時期を選んで予定を立てます。
また新月は一晩続く出来事ではなく、月と太陽が地球から見て同じ方向にそろう一瞬のことで、暦には分刻みの時刻まで記されます。月の軌道は太陽の通り道に対して約5度傾いているため、たいていの新月では月は太陽の上か下をわずかにそれて通り過ぎます。この傾きがちょうどなくなり、月が太陽の真正面を横切る回にかぎって、そこだけ特別に日食が起こります。新月から次の新月までは約29.5日で、1年のうちに12回か13回めぐってきます。
新月から1日から3日ほどたつと、日没後の西の低い空に、ごく細い三日月が短いあいだだけ姿を見せます。まだ光の当たらない部分もぼんやりと丸く浮かび上がることがあり、これは地球で反射した太陽の光が月を照らしているためで、地球照と呼ばれています。
覚えておきたいのは、この最初の三日月そのものは新月ではなく、新月のあとに来るものだという点です。日本の旧暦では、この見えなくなる瞬間を含む日を月の始まりとし、朔日と呼んできました。「ついたち」という読みは「月立ち」に由来するとされていて、新月が暦のうえで区切りとして扱われてきたことの、いまも残るなごりです。
この読み方には実用的な理由がもとにあります。印刷された暦がなかったころ、月は誰にでも見える時計であり、三日月の再登場は新しい数え直しが始まる合図でした。種まきや漁、旅の予定は月の満ち欠けに合わせて組まれ、ひとめぐりの節目にあたる暗い夜は、月明かりが頼れないぶん、いちばん作業に向かない夜でもありました。
ここから、種、最初の一歩、まだ人に見せる段階ではないもの、といった新月にまつわる言葉が生まれてきました。何もまだ形になっていないのは、何もまだ決まっていないからです。伝統のなかで結果や公表の場を割り当てられているのは満月のほうで、新月にはまだ誰も見ていない部分が割り当てられています。
ただ、正直に言えば、これは繰り返し起こる出来事にあとから結びつけられた意味であって、その週に働きかけてくる力ではありません。新月が確実にもたらすのは、約29.5日ごとに暦の上へ置かれる目印であり、定期的な目印そのものには実際の価値があります。新月から何かを得ている人の多くは、空そのものからではなく、2週間おきに振り返る習慣のほうから得ているのです。
その瞬間、太陽と月は黄道上のほぼ同じ位置に重なっているため、新月は必ずどこかひとつの星座で起こり、しかもそれは太陽がそのとき通っている星座と同じになります。5月なかばの新月なら牡牛座の新月、10月の終わりに近いころなら蠍座の新月というふうに、1年をかけてぐるりと十二星座を順番にひとつずつめぐっていきます。
星座の意味が新しい始まりの意味に色をつけると考えられているのはここからです。29.5日という周期は太陽がひとつの星座にとどまる期間よりわずかに短いため、まれに同じ星座で新月が2回続けて起こり、代わりにひとつ飛ばされる星座が出てくることもあります。なかでも3月から4月にかけて起こる牡羊座の新月は、十二星座の並びがそこから始まるという理由で、占星術の1年の始まりとして特に注目されます。
新月そのものに特別な力があるという証拠はありませんが、決まった周期でめぐってくる目印として使っている人は少なくありません。神社の絵馬に願い事を書く習わしと同じように、目に見えるかたちにしておくと、あとから振り返りやすくなるという発想です。よく挙げられる過ごし方は次のようなものです。
新月以外の日に始めた計画が不利になるという話でもありません。価値があるのは振り返りそのものにあり、月はただ、覚えていなくても向こうからやってくる予定表を差し出しているだけです。
新月そのものは地球上のどこでも同じ瞬間に起こりますが、暦に印刷されるのはそれぞれの土地の時刻です。そのため同じ新月でも国によって日付が1日ずれて表示されることがあります。日本で夜9時に起こる新月は、ニュージーランドではすでに翌日の午後になっているので、二つの一覧が1日食い違っていたら、たいていはこれが理由です。旅行中や海外のサイトを見ているときはとくに起こりやすいずれなので、どちらの暦がどの時刻帯で作られているかを先に確認してみてください。
ブラックムーンという呼び名を見かけることもあります。多くの場合、同じ暦月のなかに新月が2回入るときに使われる言葉ですが、比較的新しく作られた呼び方で、定義もはっきり定まっておらず、昔からの伝統的な意味は特にありません。スーパームーンという言葉もあまり使われません。地球に最も近づいた新月であっても、光を受けた面が見えないことに変わりはないからです。日付を確かめるときは、自分の地域の時刻に合わせて計算されている一覧かどうかを、あわせて見ておくと安心です。